小野寺史宜『まち』祥伝社文庫 ★★★★★
群馬の尾瀬にある村から18歳の時に東京へ出てきて、引っ越しのアルバイトで生計をたてている江藤瞬一の物語。小学校4年生の時に両親を火事で亡くし、それから歩荷という仕事をしているじいちゃんに育てられる。そのじいちゃんに、進学でも就職でも、それ以外でもいいから東京に出て人と交われといわれ、進学するでもなく就職するでもなく東京へでてきて、筧アパートで生活を始める。体が大きく力も強いが優しく穏やかな性格。じいちゃんと同じように自分の体を使った仕事を好む。アパートの住人やアルバイト先の人との関わりから少しずついろいろな関係が構築されていく。瞬一が住んでいる筧アパートは、『ライフ』の主人公井川幹太や『縁』の物語の一つ室谷忠人と同じアパート、『ひと』の舞台であるおかずの田野倉もでてくる。小野寺史宜の作品は特別大きな事件や特殊な事件は起きないけど、生活している中で少しずつ構築される人との関係を大事に丁寧に描いている。いろいろな作品に出てくる登場人物が物語の随所で現れるのも、人が生きていると気づかないうちに様々な人と少しずつすれ違っていることを全編通して描いているのかな、と思う。穏やかで優しくあっという間に読める。
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