奥田英朗『罪の轍』新潮社★★★★★
【内容】
東京オリンピックを控えた昭和の犯罪事件。テレビや電話もまだ民間にはそれほど普及していない時代に起きた誘拐事件を追う刑事と犯人の物語。莫迦と周囲に言われる犯人の宇野寛治は罪悪感もなく、重大さも認識せずに窃盗を繰り返し、そのうちもっと大きな罪も罪の意識なく犯してしまう。その背景には悲しい生い立ちも関係する。
【感想】
自分が尊重されないことに慣れきってしまい、不条理な扱いを受けても、怒ることも悲しむこともない。そうすると他人を尊重することもできなくなってしまう。ただの空き巣からどんどん大きな犯罪に、何の躊躇もなく後先を考えることもなく進んでいってしまうという、救いがなく、悲しい物語だった。犯したことは明らかに悪いが、でも完全な悪人かと言われると難しい。奥田英朗の作品の、すべてのタイミングがどんどん悪い方へ行ってしまう、どこまでも救いのないタイプの小説だった。
長い小説だが、佳境になるにつれ早く読みたくて仕方なくなる本だった。
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